234の拳の言葉

 拳。
(1)五指を曲げて握り締めたもの。握りこぶし。
「―をふり上げる」「―をにぎる」――――――――――――大辞林

 「拳」。五指を開き、それを中央に握り固めた物。何もせず、無為の元でそれはただの「モノ」である。
しかし、意味を持ったとき、拳は言葉となる。

 2002年6月23日、PRIDE21。
メインに組まれた試合は高山善廣vsドン・フライ。
試合はまさに乱打戦となった。
相手に組み付き、とにかくぶん殴りまくる。殴られては何くそとぶん殴り返す。
男と男の間に交わされるモノは拳のみ。
最後には、拳の雨の中で相手を崩し、上から殴り続けてフライが勝利をもぎ取った。
それまでに交わされた拳は、実に234発。
1R6分10秒、TKOという結果だった。

6分10秒。
男・高山善廣と男・ドン・フライの間に存在した時間は6分10秒という短い時間だった。
しかし、格闘技ファンはその時間の中に多くの思いを持っただろう。
自分を証明するため、相手に拳を叩き込む。
プロレスラー高山善弘はプロレスを背負って。
格闘家ドン・フライは総合格闘家という名の下に。
意地と意地のぶつかり合い、その時拳は、闘争心の元に言葉となった。
高山の言葉はフライに、フライの言葉は高山に、二人の言葉は格闘技ファンにしっかりと聞こえた。

 握りっぱなしの拳はない。拳はいつか開かれる。
開かれた拳は掌となって、また別なことを表す言葉となるだろう。
そして、再び拳が握られるとき…………

拳は、何を云うのだろうか。

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