拳王大騒動も過去のことになり、聖帝学園に日常が帰ってきた。
異例の緊急カリキュラムも停止となり、通常授業が始まった2年1組――――――
「なあ、兄貴」
「ん、どうしたの、豪仁」
この二人は荒田兄弟。大柄な弟が豪仁、小柄な兄が一美。
柔道部所属、2−1の名物双子である。
「…………ヤったの?」
とたんに、近くにいた少女がぽっと赤くなる。
「ご、豪仁くんっ」
少女がつい声を荒げると同じタイミングで、豪仁の鳩尾に拳がめり込んでいた。
「あ、兄貴………」
鳩尾にいきなり一撃をもらった豪仁がとたんに青い顔になる。
一美はあまり顔色を変えてないようだがその拳はしっかりと豪仁に撃ち込まれていた。
これが一美の恐ろしさである。
「……………………ま、一応、ね。」
「一美くん……」
そして、否定せずに答える。
少女―――秋山令は赤い顔のまま一美を見つめた。
どうやら一美と令は少々――――――ただならぬ関係、というやつらしい。
「隠してても仕方がないからね」
得意げとか、恥ずかしいとかといった感情は出さずに一美は認めた。
「でっ、でも、教えるのは豪仁くんだけよ」
令が釘を刺そうとしたときには、すでにギャラリーができあがっている。
「へぇ………」
「おう、やるじゃん一美くぅん」
「かわいい顔しちゃってこいつ!」
すぐに声をかけてきたのはなぎなた部所属、クラスでは「姐さん」と呼ばれている瀧青子。
かつてはあまり褒められたことではない人間だったが、今は更正して学生生活を送っている。
そしてふざけた男二人、卓球部の伊藤鳩也と副委員長の河野青雲。
勿論この二人はすぐに鳩尾に一発ずつもらって地べたを転がり回る羽目になった。
「ったく、男ってバカだよにゃー」
鳩尾を押さえながら転がるバカ二人を見つつやや頭のネジの緩そうな口調でしゃべっているのは
総合格闘技部の天野清奈。その見た目とは裏腹に「総格のホープ」と呼ばれる女である。
「………………………そんなものだ。」
「にゃっ!?」
突然隣に現れたトレンチコートの男の低い声に驚いてか、清奈は椅子から転げ落ちた。
「………何を驚く」
「だ、だって健吾君があたしに話しかけてくるの珍しいんだもん!録音しとけばよかった!」
「………………それは大げさだ」
健吾君と呼ばれた―――トレンチコートの男は半ばあきれ顔で答えた。
相沢健吾。それが彼の本名である。
「ところで未来はいるか?」
「あっ、はいっ!」
「…………………なかなか面白かった」
そういって健吾は未来と呼ばれた少女―――新田未来に文庫本を返す。
途端に未来の顔が明るくなる。
「あっ、ありがとうございますっ!」
二人はサバイバルゲーム部の部長と副部長であるが、しばらく前からこの不自然な――――
『先輩−後輩関係』のような間柄である。
「その本は何かにゃー?」
不思議そうに清奈が本をのぞき込む。
「へぇ、孫子とはまた渋いね」
そこに現れたのは学級委員長の北条真紀子。「あねご」と慕われるクラスの大黒柱である。
「あたしゃ難しくて良くわかんないよ」
「そりゃあね。あんたは黙って体動かしてりゃ事足りる、と。」
「あ、あんた自分のこと棚に上げてよく言うわよねぇ………」
口論しながら割り込んできたのは水泳部の水城夏葉と挑戦部………
よく知られては居ないがとにかく挑戦することが活動目標である田中秋子。
二人ともそれぞれ「どこでも泳ぎたがる」「すぐ挑戦したがる」と言う性情のせいか
常に生傷だらけで気は合うのだが。
「まったく、ケンカもそのくらいならかわいいもんさ。」
真紀子が半ば呆れ気味に笑いながら言った。
「あー、あいつらね。」
秋子もすぐに思い浮かんだのか苦笑を浮かべる。
「っつーか、やってるし。」
夏葉が指差す先では二人の男が凄絶なケンカをしていた。
「このハゲ野郎!」
「ハゲはお前だこの三流柔道家!」
「あぁ!?いったなこの五流剣道家がっ!」
「るせぇ!一生受け身取ってろタコッ!」
剣道部の牧正一と柔道部の福田健。どういう訳か仲の悪い二人である。
彼らの目が合うとそこは戦場になるという程の問題児だ。
「っらぁ!!」
「甘い!」
牧の投げつけた椅子が空を切る。
そして次の瞬間―――――――後ろにいた男のこめかみに直撃した。
男は激しいリアクションと共に壁まで吹き飛ぶ。
「おっ、おい…………」
頭に血が上りきっている二人は放っておいて、周りは一瞬しんと静まりかえった。
が。
「てて、平気平気。」
こめかみからものすごい勢いで出血している男はひょいと立ち上がると自力で保健室へと行った。
山下信弘。通称”不死身の男”である。
「相変わらずヤマシタは強いデスねー」
そのものすごい光景を見つつ片言の日本語でつぶやくラテン系の男。
「強さとは愛です。愛こそが強さ。さあ愛しましょう!」
「それは勘弁してクダサーイ」
鼻息荒く近寄ってくる愛の伝道師、雪村寒次をかわすと
ラテン系の男は同じく―――――留学生と思われる女性に話しかけた。
「ヘイ、ジェイス」
「あら、オリヴェイラでねの。どげんしたとね?」
方言。
このどこともつかぬ方言を話す留学生は淡路ジェイス。日系カナダ人である。
「チョット、ルーズリーフを分けてクダサーイ」
「いいっぺよ」
「い、いつ聞いてもインパクト強い会話だな」
ジェイスとラテン系―――フォレスト・オリヴェイラの会話を聞いて正直な感想を述べているのは
島村忍。女たらしのサッカー部員である。
「……まあ、私にとってはお前の節操の無さの方が理解しかねる」
そこに鋭いつっこみを入れるのは生徒会会計もつとめる”鬼メガネ”こと敦賀裕一郎。
容赦なき知性と攻撃性を持った男である。
「おいおい、敦賀ちゃん、男がレディーに声をかけるのは仕事ってもんだろ?」
そういうと忍は席を離れ、隣の「レディー」に声をかけた。
「へい、陰子ちゃん♪」
陰子――――――――高木陰子。クラスで一二を争うほど静かな女である。
「…………………………………何?」
「明日休みだし、遊び行こっか♪」
「………………………………いい」
「えー、つれないなぁ………」
と、そのときである。
忍が急に背後に殺気を感じ取ったのは。
「お・れ・の・い・も・う・と・に・な・に・を・し・て・る・の・か・な〜〜!?」
「げえっ、陽!!」
高木陽。やや意識過剰な陰子の兄である。
「…………またやってるよ。この計算だと………100パーセント殴られるね」
「みりゃわかるじゃん」
若林悠と葛木亮子。それぞれ天才的計算力と応用力を持つという2−1の発明コンビだ。
「で、今度は何?」
話ながら設計図に汚い字を書き込んでいく亮子を見て悠が尋ねる。
「あ、これ?あたしの諸葛砲、ちょっと改良しようと思ってね」
「また改良?……………………そのうち死人出るわよ」
「まったくまったく。浮気を懲らしめるって言っても木っ端微塵じゃおいしくないわよ?」
そこに割り込んできたのは一見かわいらしい少女。
しかし腹黒さと計算高さでは一美にも負けないと言われる逸材、日向葵である。
「あっ、葵!う、浮気って何よ!!」
途端に亮子があわてる。
「あれ?亮子って確か鳩也君と………」
「わーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
揺さぶりをかけられてあわてる亮子。
しかしすでに葵はどこかへ消えている。
「あ、悪魔のような娘だわ…………………」
「悪魔っていえば、本当の悪魔は尾熊のバカだよ!」
そこに立っていたのはプロレス研究会の高山裕美。
料理も勉強も運動もこなすプチ完璧超人である。
「悪魔って、あの温厚そのものの奴が?」
話に割って入ってきたのは大泉葉子。貧乏食堂の娘である。
「だってあいつさ…………」
そういうと裕美は自分の携帯のメール欄を見せた。
「うわっ、85件も同じメールがっ」
「授業中震えっぱなしなんだよ?しかも全部につまんないダジャレとか書いてあるし」
「それは………悪魔ね」
そう言いつつ裕美が尾熊―――尾熊慎也の方を向くと彼はしたり顔でにやりと笑っている。
「…………殺す」
裕美が椅子を掴んでつかつかと歩いていくと、不意に一人の男が立ちふさがる。
「こらこら、もうちょっと温厚に行こうよ」
その男は遥悠斗。キックボクシング部所属の仏の顔を持つ男である。
「ゆ、悠斗が止めるんなら……………いいか」
案外簡単に引き上げる裕美。それは悠斗の本性を知っているからであろう。
優しい顔してケンカに巻き込まれるとものすごい勢いのローキックで脚を破壊しに行く男。
それが悠斗の本性だからである。
「…………あいつが一番の悪魔だわ」
「いや、渡辺だな。」
最強の悪魔=悠斗説を覆す意見を出したのは空手部主将、辰木龍五郎であった。
「ナベちゃん?別に怖いことは………」
「あいつずっとハンドグリップ握っててギチギチ言って授業に集中できないんだよ」
「注意すりゃいいじゃん」
「したさ。」
「そしたら?」
「…………………握ってたことに気づかなかったんだとよ。」
「………………て、天然は強いわね…………」
結論が出たところで裕美が切り出した。
「そう言えばさ…………龍、まゆとはどうなってんの?」
「!!」
その言葉を聞いた途端、龍五郎はふらふらと教室を出て行った。
「ねえ、まゆっち」
「……………………何?」
「龍五郎とはどうなってんの?
「…………ごめん無かったことにして〜♪ヒロミ・ゴ………
……………………いや、なんでもない。」
「…………………」
かなり空気が気まずくなっていた。
「忍者はどんなに薄い空気にも慣れられるけど…………これは勘弁」
「ちょっと比べる物が違うんじゃない?」
まゆたちから離れたところで世間話をしているのは忍者研究会のリーン・ジェイスと
剣道部のレティシア・アストラルズである。
「レッティ、今日は木刀家に置いてきたわよね?」
「ええ。確かに家に……って、何でここにあるの!?」
レティシアの言えに伝わる木刀………これを手にすると性格が豹変して凶暴になると言う。
「だ、だだだだってあたし置いてきて……」
「のっ、呪われてるっ、呪われてるわっ!!」
そうあわててるうちに後ろから爆音が聞こえてきた。
「あんたらは…………………アホかーーっ!!」
爆音はものすごいパンチで吹っ飛ばされた男が三人壁に突き刺さった音であった。
向かって左からロウ・ギムル、ソウル・バルバロス、土方利家。クラスが誇る三バカトリオである。
そしてその三人を殴り飛ばしたのはミリナ・ラスティ。ロウ曰く黄金の右を持つ女ソルジャー。
その左手に握られていた学級新聞もどきの一面には大きな字でこう書かれていた。
『ミリナ容疑者 デパートで胸パットを買っている現場を発見』
そりゃあ殴られるわ、とクラスメイト全員が見ているとチャイムが鳴った。
そして、日常が始まる。

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